アナログ回路講座③ インダクタの逆起電力を可視化する 

インダクタは磁気エネルギーを蓄える

インダクタはコイルと同じ構造で、電流を流すことによって磁気を蓄えることができる受動素子です。ちなみに、コンデンサは電流を流すことによって電荷を蓄えることができます。インダクタに直流電流を流すことによって、インダクタに磁束が発生します。磁束Φは以下の式で表すことができます。
Φ = L×I (Wb)
この式を時間で微分すると、
Φ/dt = L×I/dt
左辺の時間によって変化する磁束(Φ/dt)が誘導起電力Vとなります。 この誘導起電力を活用した電源回路がスイッチングレギュレータになります。

スイッチングレギュレータの動作原理

図1 降圧用スイッチングレギュレータの回路図

図1に降圧用スイッチングレギュレータの回路図を図示します。
図中のMOSFET Qがオンすると、赤色の電流のパスが発生します。つまり、このインダクタLには出力電圧Eoから入力電圧Eiを引いた電圧Eo-Eiが印加されます。インダクタに流れる電流は、図1のように最初から流れずに少しずつ流れます。理由は、インダクタに発生する誘導起電力が電流の流れを妨げるためです。次にMOSFET Qがオフすると、インダクタの誘導起電力によって、青色の電流のパスが発生してダイオードDがオンします。そして、インダクタLとコンデンサCで平滑された電圧が出力されます。

逆起電力をシミュレーションで再現

先程インダクタに発生する誘導起電力を活用して電源回路を構成できると説明しました。しかしながら、この誘導起電力によって電子回路が破壊されることがあります。

図2 リレー(電磁開閉器)の構成とリレーオフ時の電圧波形

図2にリレー(電磁開閉器)の構成と電圧波形を図示しました。図2においてトランジスタがオンするとリレーがオンし、コイルに電流が流れることによって誘導起電力が蓄えられます。その後、トランジスタをオフしてリレーがオフになると、コイルに蓄えられた誘導起電力によって、図2のグラフのように高電圧が発生します。この電圧を逆起電力といいます。この逆起電力が図2の①に発生するため、この高電圧である逆起電力が直接トランジスタに印加されて故障してしまいます。
この逆起電力は実際何ボルトの電圧になるのでしょうか?
この逆起電力をシミュレーションで再現してみたいと思います。シミュレーターとしてLTspiceを使用します。このLTspiceはアナログデバイセズ社が提供するシミュレーターで、どなたでも無償で使用できます。
図3と図4にLTspiceで登録した回路図とシミュレーション結果を図示しています。この回路は、0.1mHのインダクタに12V電源を接続し、MOSFETでスイッチングします。100msのところでMOSFETをオンからオフにスイッチングすると、MOSFETのドレイン側に約5kVの高電圧が発生しています。これが逆起電力です。

図3 インダクタの逆起電力を検証する回路
図4 図3の回路図でMOSFETをオフしたときのドレインDに印加される電圧

逆起電力の対策方法は?

この逆起電力を防止するためには、インダクタの両端にダイオードやスナバ回路を実装して、逆起電力を逃がすパスを作らなければいけません。
図5と図6にインダクタの両端にダイオードを実装した回路図とシミュレーション結果を図示しています。このようにダイオードを実装することにより、インダクタとダイオード間で逆起電力を逃がすパスを形成できるため、MOSFETのドレイン側に高電圧が発生していません。

図5 インダクタの逆起電力防止回路
図6 図5の回路図でMOSFETをオフしたときのドレインDに印加される電圧