アナログ回路講座⑨ トランジスタの接地回路

前回のアナログ回路講座⑧ オペアンプの消費電力を計算する の中で、オペアンプの出力端子にトランジスタを接続して駆動能力を向上させる方法を説明しました。この接続方法をコレクタ接地と説明しました。トランジスタの端子の中で、接地する端子や負荷抵抗を接続して出力する端子の違いによって、このコレクタ接地の他にベース接地、エミッタ接地の3種類の回路があります。それぞれの接地回路について、説明していきます。

ベース接地回路


図1 ベース接地回路

図1にベース接地回路を図示しています。ベース接地回路は、エミッタから信号を入力し、コレクタから出力する回路です。ベース接地回路の動作は、ベース-エミッタ間に0.6~0.7V以上の電圧を印加すると、ベースから入力端子であるエミッタに電流が流れてトランジスタがオンします。トランジスタがオンするとコレクタ電流ICが流れます。出力電圧VOUTは、コレクタ抵抗RCの電圧降下、つまりはコレクタ抵抗RCとコレクタ電流ICを掛け合わせた値になります。
ベース接地回路の電流利得Aiは、出力電流を入力電流で割った値になるため、エミッタ電流IE÷コレクタ電流ICです。このエミッタ電流IEは、コレクタ電流ICにベース電流IBを加えた値です。ベース電流IBは非常に小さい値のため、コレクタ電流ICはエミッタ電流IEとほぼ同じであるといえます。そのため、ベース接地回路の電流利得Aiは1に近いです。
電圧利得Avは、出力電圧VOUT÷入力電圧VINになり、出力電圧VOUTはコレクタ抵抗RCの電圧降下に比例します。コレクタ電流ICは、ベース電流IBに直流電流増幅率hFEを掛け合わせた値になるため、電圧利得Avは大きくなります。
入力インピーダンスZiは、入力電圧VIN÷エミッタ電流IEになります。先程説明した通り、コレクタ電流ICはエミッタ電流IEにほぼ等しく、コレクタ電流ICはベース電流IBに直流電流増幅率hFEを掛け合わせた値になるため、エミッタ電流IEは非常に大きな値になります。そのため、ベース接地回路の入力インピーダンスZiは小さくなります。
出力インピーダンスZoは、出力電圧VOUT÷コレクタ電流ICとなり、コレクタ抵抗RCと等しくなります。コレクタ抵抗RCを大きくして出力電圧VOUTを大きくするため、出力インピーダンスZoは大きくなります。
このベース接地回路は、入力インピーダンスが低く、出力インピーダンスが高いという大変使いにくい回路です。しかし、入力がエミッタで出力がコレクタであるため、容量的な結合が少ないことから、高い周波数領域まで利得が必要な高周波回路の増幅器に使用されます。

エミッタ接地回路


図2 エミッタ接地回路

図2にエミッタ接地回路を図示しています。エミッタ接地回路は、ベースに信号を入力し、コレクタから信号を出力する回路です。エミッタ接地回路の動作は、ベース-エミッタ間に0.6~0.7V以上の電圧を印加すると、VIN端子からベース電流IBが流れてトランジスタがオンします。トランジスタがオンするとコレクタ電流ICが流れます。出力電圧VOUTはベース接地回路と同じく、コレクタ抵抗RCの電圧降下、つまりはコレクタ抵抗RCとコレクタ電流ICを掛け合わせた値になります。
エミッタ接地回路の電流利得Aiは、出力電流を入力電流で割った値になるため、コレクタ電流IC÷ベース電流IBです。これは直流電流増幅率hFEと同じになるため、エミッタ接地回路の電流利得Aiは大きくなります。
電圧利得Avは、出力電圧VOUT÷入力電圧VINになり、出力電圧VOUTはベース接地回路と同じくコレクタ抵抗RCの電圧降下に比例するため、電圧利得Avは大きくなります。そのため、エミッタ接地回路は電圧利得Av、電流利得Aiが大きいため、増幅回路で多く使用される接地回路になります。
入力インピーダンスZiは、入力電圧VIN÷ベース電流IBになります。ベース電流を大きくしてもVBEは0.6~0.7Vで一定のため、入力インピーダンスZiは小さくなります。
出力インピーダンスZoは、ベース接地回路と同じく出力電圧VOUT÷コレクタ電流ICとなり、コレクタ抵抗RCと等しくなります。コレクタ抵抗RCを大きくして出力電圧VOUTを大きくするため、出力インピーダンスZoは大きくなります。

コレクタ接地回路


図3 コレクタ接地回路

図3にコレクタ接地回路を図示しています。コレクタ接地回路は、ベースに信号を入力し、エミッタから信号を出力する回路です。コレクタ接地回路の動作は、ベース-エミッタ間に0.6~0.7V以上の電圧を印加すると、VIN端子からベース電流IBが流れてトランジスタがオンします。トランジスタがオンするとコレクタ電流ICが流れて、エミッタ抵抗REにエミッタ電流IEが流れます。
このエミッタ接地回路の大きな特徴は、電圧利得Avが1であることです。この出力電圧VOUTは、入力電圧VINからベース-エミッタ間電圧VBEである0.6~0.7Vを差し引いた値になります。そのため、コレクタ接地回路の電圧利得Avは、厳密には1よりも小さくはなります。しかし、入力電圧VINに追従して出力電圧VOUTが変動することから、別名エミッタフォロワ回路と呼ばれています。
電流利得Aiは、エミッタ接地回路と同じく大きくなります。コレクタ接地回路の出力電流は、コレクタ電流ICとほぼ等しくなります。そのため、入力電流であるベース電流IBに直流電流増幅率hFEを掛け合わせた値になるため、電流利得Aiは大きくなります。
入力インピーダンスZiは、入力電圧VIN÷ベース電流IBになります。先程のエミッタ接地回路では、ベース電流を大きくしてもベース-エミッタ間電圧VBEは変化しないため、入力インピーダンスは小さくなります。しかし、コレクタ接地回路の場合、ベース電流IBを流すとエミッタ電流IEが流れてエミッタ電圧が高くなるため、ベース電流は殆ど流すことができません。そのため、コレクタ接地回路の入力インピーダンスは大きくなります。
出力インピーダンスZoは、出力電圧VOUT÷エミッタ電流IEになります。この出力電圧であるエミッタ電圧は、エミッタ電流IEが大きくなっても入力電圧VINからベース-エミッタ間電圧VBE 0.6~0.7Vを引いた値になります。つまり、出力電圧が殆ど変化しないため、出力インピーダンスZoは小さいといえます。そのため、電流利得Aiが大きく、出力インピーダンスZoが低いことから、バッファアンプ、電流増幅回路などに使用されます。

【参考文献】新 低周波/高周波回路設計マニュアル 21ページ CQ出版社(1988年4月)