バッテリマネジメント講座-9 リチウムイオンバッテリの使用上の注意点
二次電池の劣化モード
図1にリチウムイオンバッテリの劣化カーブの参考例を示しています。横軸には使用期間、縦軸にはSOH(健全度)のグラフです。リチウムイオンバッテリの劣化カーブは、使用環境によって異なってきます。基本的には同じ使用環境温度で同じ充放電電流で毎日使用すると、図1のようにマイナスの傾きを持つ1次関数に近いグラフになります。
二次電池の劣化モードにはカレンダー寿命とサイクル寿命の2種類あります。
- カレンダー寿命
カレンダー寿命は、使用せずに放置したときの劣化モードになります。放置時間、環境温度、SOC(充電率)に大きく依存します。SOCが高い状態で放置するとカレンダー寿命が短くなるため、長期間保管する場合にはSOCに注意が必要です。 - サイクル寿命
サイクル寿命は、充放電を繰り返したときの劣化モードになります。電池の種類や環境温度、充放電電流などで大きく変化します。SOCが高くてDOD(放電深度)が大きいとサイクル寿命は短くなります。つまり、フル充電して完放電近くまで使用し続けて、再びフル充電するような場合は、バッテリ寿命は短くなる傾向にあります。
低温時における充放電特性
図2に各使用環境温度におけるリチウムイオンバッテリの放電電流特性を示しています。横軸に放電電流の積算値、縦軸にセル電圧のグラフです。バッテリの満充電状態から放電したときのバッテリのセル電圧の遷移を表しています。 このグラフの通り、放電電流特性は温度特性を持っています。使用環境温度が低くなると、セル電圧が低くなる傾向にあります。このグラフのリチウムイオンバッテリの場合、45℃の高温時は30Ah以上のバッテリ容量がありましたが、-10℃になるとバッテリ容量が30Ah程度まで下がっています。つまり、リチウムイオンバッテリの特性として、使用温度が低いと電池が活性化されないため、充放電特性が劣化します。そのため、常温付近で使用する場合は問題ありませんが、使用温度が0℃を下回るとバッテリ容量は大きく低下します。リチウムイオンバッテリを寒冷地などの寒い場所で使用する場合は、放電特性を改善する対策が必要です。
リチウムイオンバッテリの使用可能領域
図3にリチウムイオンバッテリのSOC-OCV(充電率-開回路電圧)特性を示しています。一般的なリチウムイオンバッテリのSOC-OCV特性の特徴は、SOCが15~20%ぐらいから90~95%ぐらいまでは比較的平坦です。しかし、それ以外の範囲は大きくセル電圧が変動します。バッテリ容量はSOCが0%~100%まで使用できそうですが、実際はこの平坦な部分しか使用できません。その理由は、SOCが15%以下で使用した場合、セル電圧が大きく変動します。電動車の場合、登坂などの大きなトルクが必要なときにアクセルを踏み込んだときに、放電電流が大きくなると共にセル電圧が大きく低下し、安全動作領域を逸脱することが考えられます。つまり、少しの放電電流の変動により、大きくセル電圧が変動するため、安定して走行することができません。
例えば、バッテリ容量が40Ahの場合、SOC-OCV特性が安定している80%程度が使用可能領域のため、実際の使用可能なバッテリ容量は32Ah程度となります。ただし、SOCが高くてDODが大きいとサイクル寿命は短くなる傾向があります。そのため、SOC-OCV特性の上側(0%~20%)と下側(90%~100%)の部分を使用しないことは、バッテリ寿命を延ばす対策になります。