アナログ回路講座-4 ダイオードの逆回復時間を可視化する

逆回復時間とは

図1 ダイオードの逆回復時間

ダイオードは、順方向にのみ電流が流れて逆方向には電流が流れない特性を持っています。順方向に閾値電圧(順方向電圧)以上の電圧を印加すると電流が流れ始めます。では、ダイオードは逆方向に電流が流れることはないのでしょうか?
ダイオードがオン状態にときに逆方向に電圧が印加されることによって、ダイオードはオフ状態になります。しかしながら、ダイオードがオフしたときに、電子は急に停止することができないため、図1のように一定の電流が逆方向へ流れてしまう性質を持っています。ダイオードがオフするときに、逆方向へ電流が流れ始めてから完全にオフするまでの時間を逆回復時間(trr)といいます。

逆回復時間をシミュレーションで可視化

図2 降圧用スイッチングレギュレータの回路図

降圧用スイッチングレギュレータを使用して、逆回復時間をシミュレーションで可視化してみます。降圧用スイッチングレギュレータの動作につきましては、アナログ回路講座③ インダクタの逆起電力を可視化する のブログを参考にしてください。
図2にLTspiceで登録した降圧用スイッチングレギュレータの回路図を図示しています。このスイッチングレギュレータは、24V電源を12Vに降圧する回路です。そのため、MOSFET M1のスイッチング周期(5.0us)のデューティ比を50%(2.5us)にしています。 スイッチングレギュレータの還流ダイオード D1は、ローム製のショットキーバリアダイオードであるRB085BM-30FHを使用しています。このダイオードを選定した理由は、順方向電圧が0.48Vと低く、ダイオードがオンしているときの損失を小さくするためです。

ダイオードがオフした後の逆方向電流

図3 ダイオードD1に流れる電流のシミュレーション結果

図3にダイオード D1に流れる電流のシミュレーション結果を図示しています。ダイオード D1に電流が流れていないときはMOSFET M1がオンのときで、電源24Vからインダクタ L1を経由して負荷(5A)へ電流が流れています。ダイオード D1に電流が流れているときはMOSFET M1がオフのときで、インダクタ L1に蓄えられた電流が負荷を経由してダイオード D1に流れています。
図4の波形は、図3のシミュレーション結果を拡大した波形になります。ダイオード D1がオフになるまでに、-3.0A近くの電流が流れてから約10nsの時間が掛かっています。このダイオード D1に逆方向電流が流れている時間が逆回復時間になります。つまり、逆回復時間に流れている電流は、本来であればインダクタ L1に流れなければいけません。そのため、逆回復時間が長いと効率が悪くなります。

図4 図3のシミュレーション結果の拡大図

逆回復時間が短いファストリカバリダイオード

順方向
電圧
(VF
リーク
電流
(IR
逆回復
時間
(trr)
整流ダイオード××
ショットキーバリアダイオード×
ファストリカバリダイオード×
表1 各種ダイオードの特性

表1に各種ダイオードの特性をまとめてみました。図2の降圧用スイッチングレギュレータで使用したショットキーバリアダイオードと同じく、逆回復時間が短いダイオードはファストリカバリダイオードになります。ファストリカバリダイオードは、ショットキーバリアダイオードと比較して逆方向電流(リーク電流)が少ないため、逆回復時間に流れる電流は少ないです。しかしながら、順方向電圧が大きいため、ファストリカバリダイオードをスイッチングレギュレータに使用すると損失が多くなってしまい、効率が悪くなります。

【参考文献】RB085BM-30FHデータシート ローム株式会社(2019年)